液滴生成過程を対象としたイベントベースビジョンカメラを用いる深層学習の特長
弘前大学城田研究室
小杉 敬仁
任意の大きさの均一な液滴を安定して作り出すこと、それはあらゆる産業分野で求められている技術である。インクジェットプリンターのインクや自動車塗装、医療やスーパーコンピューターの性能向上にまで微小液滴は関わっている。極微かつ超高速な現象である液滴生成の解析に、イベントベースビジョンセンサー(EVS)が新たなフロンティアを切り開こうとしている。(株式会社センチュリーアークス)
可視化情報シンポジウム 2024(2024年7月19日~21日)にて発表
ダイジェスト
深層学習は、人工知能の開発や自動運転などを実現するために不可欠な方法として、様々な産業分野において広く活用されている。しかし、深層学習には利便性の反面、課題も複数存在する。私たちは、深層学習による画像分類にイベントベースカメラで撮影した画像を用いることで、イベント画像の特徴を把握するとともに、深層学習の課題解決のための手法探求を試みた。
実験装置の概略を図1に示す。
試験液体:純水
ニードル:内径0.16 mm
撮影:フレームカメラ および イベントカメラ
撮影は、比較のために通常のカメラ(フレームカメラ)およびイベントカメラで行った。カメラ映像はリアルタイムでPC に転送し、学習済みネットワークで分類する。
フレームカメラ
イベントカメラ
以下のグラフは、フレーム画像とイベント画像を使用し、CNN へ学習させた過程における精度遷移である。青い丸印で示した部分は、学習過程で最初に検証精度が100%に達した時点である。図からわかる通り、イベントカメラ画像の方が、早く検証精度100%に達している。
フレームカメラ
イベントカメラ
上記の理由を探るため、オクルージョン感度(*)マップを用いて深層ニューラル ネットワークによる分類の判定理由を推定した。イベント画像では輪郭部分を特徴として多く抽出していることがわかる。 イベントカメラは、撮影対象の条件によらず物体の輪郭部分の情報を多く正確に捉えることができるため、少ない反復回数で学習を終えることができると考える。
(*)オクルージョン感度は、深層ネットワークの分類において、イメージのどの部分が最も重要かを理解するための手法の1つ。
フレームカメラ
イベントカメラ
【結言】
本研究では、イベントカメラが深層学習にもたらす特長について、ネットワークの可視化や各カメラが捉える情報を可視化することによって明らかにした。学習過程においては、少ない反復回数で学習を終えられたことから、深層学習の問題点である膨大な量のデータセットの作成への対処が期待できる。今後は他現象においても、イベントカメラが同様の特長を有するかを検証することで、当該カメラが深層学習にもたらす可能性を調査していく。
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弘前大学 城田研究室のご紹介
弘前大学は、1949年(昭和24年 )に新制大学として創立され、70年を超える歴史を持つ国立の総合大学です。
「世界に発信し、地域と共に創造する」をスローガンに、総合大学の機能と特徴を最大限に活用し、グローバルな視点に立った教育並びに基礎的、応用的、学際的研究を推進しています。
理工学部機械科学科の城田教授は、混相流体工学を専門とし、液滴や気泡・粒子を含む流れの計測と力学解明、またその産業、医療分野への応用をテーマに研究を進めています。
【主な研究テーマ】
• 噴霧塗装の物理現象解明
• 液滴変形解析による物性計測法
• スマートネブライザの開発
• 相変化を伴う液滴衝突
• 非定常な液滴分裂
「現象解明」と「応用技術」の研究を通じて、様々な科学的課題に取り組みながら、科学者や技術者としての責任を持ち、人間社会と自然環境に与える影響を意識した研究開発の重要性を学生たちに教えています。
http://www.mech.hirosaki-u.ac.jp/~mshirota/
弘前大学 城田研究室とのコラボレーション
(株)センチュリーアークスは、イベントベースビジョンの新たな世界を切り開くため、2022年より城田研究室とのコラボレーションを続けています。若い研究者たちの持つ革新的な想像力とインスピレーションから、どのようなイノベーションが生まれてくるのか! 目に見えないものを明らかにしたいという研究者たちの情熱に、私たちは期待しています。