<受賞作品紹介> SilkyEvCam® イベントベースビジョンカメラ活用アイデア・アルゴリズムコンテスト 2024 『最優秀賞』
"イベントベースドカメラによる可視光通信「えぼっく(EBOCC)」" やのやのわくわく(五十嵐幸多さん、小林由佳さん、小林凌也さん)(長岡工業高等専門学校)

ダイジェスト

(1)提案の概要

LED等の可視光を使用した通信手法(可視光通信)は, 電磁ノイズに強く, 高いセキュリティを確保することができ, また, 無線通信に干渉せず誰でも自由に利用することができるという優れた特徴を有する. その一方で, 通信距離が光源の強度に依存するため, 通信範囲が限られてしまうという問題があります.
また, 従来のフレームベースカメラを用いた可視光通信には, 時間分解能の低さによる情報伝達量の制限, 伝達量増加のためのカメラ性能向上に伴う消費電力の増加, モーションブラー(被写体の動きが速い時に生じる画像の「ブレ」)や低照度環境での画像劣化による情報取得の困難さなどの課題があります.
本提案は, 可視光通信の優れた特徴を活かしつつ, 従来のフレームベースカメラを用いた可視光通信の課題を, 時間分解能が高く, 低照度下でも広いダイナミックレンジ(検知可能な最小輝度と最大輝度の比)で輝度の変化を感知できるイベントベースビジョンカメラ(以下、イベントカメラ)を用いることで解決しようとするものです.

図1. 実験環境

(2)イベントカメラを用いた光通信のアルゴリズム

1と0のバイナリーデータの列から成る信号をイベントカメラで読み取るためのアルゴリズムを図2に示しています.図は0101100という信号をイベントカメラで読み取った例です.イベントカメラでは光量の増加・減少のみを取得するので, LED等の光源のON/OFFによって0101100の信号を作成し, 光量信号の0から1へ, あるいは1から0への切り替わりをイベントカメラで検知することで, 切り替わり前の信号が0であれば1, 切り替わり前の信号が1であれば0という信号に切り替わったことを読み取ることができます.一方で, このままでは, たとえば0110のように2つ以上1が続く信号は読み取ることができませんが, 本提案では巧みなアルゴリズムにより, この問題を解決できることを実証しています.
さまざまな符号化/変調方式が実験的に試され、エラー検出/補正のためのアルゴリズムも含めて実際に通信可能であることが実験によって実証されています.既存の可視光通信装置が2点間の通信であるのに対して, 1対Nの通信の実現性を示す実験でもあります.

図2.イベントカメラによる可視光通信のアルゴリズム

イベントカメラをを用いた可視光通信は, イベントカメラ(動きや変化などのイベントだけを撮るカメラ)の新しい応用分野であり, 本提案はそのコンセプトを見事に表現しており, 最優秀賞に選出となりました.

(3)チームのご紹介

私たちは研究室繋がりで集まったチームです.動作している物体のみを写すイベントベースビジョンカメラに興味を持ち, 代表の五⼗嵐が画像処理を研究している学⽣を中⼼に集めました.

(4)受賞のご感想

動いている物体のみを写す特殊なカメラを⽤いた開発はとても新鮮な体験でした. まだ世に広まっていないデバイスにも関わらず, SDK がしっかり⽤意されていることにも驚きました. 活⽤事例が少ない中でアイデアを考えることや, 少ない情報で機能を実装することには苦労しましたが, 確実に⾃分たちの実⼒は向上しました. 今後は,ロボット分野を通してこのカメラの社会実装に貢献していきたい所存です.

図3. やのやのわくわく