<受賞作品紹介>　SilkyEvCam® イベントベースビジョンカメラ活用アイデア・アルゴリズムコンテスト 2024 『優秀賞』
”物質の本質を捉える実験をいかに簡便かつ安価に行うか” Science Support SPINOZA （内山哲治教授、佐藤夏菜恵さん、松村美結さん）（宮城教育大学）

ダイジェスト

（１）提案の概要

本提案はイベントベースビジョンカメラ(以下,イベントカメラ)を研究ではなく, 教育に活用しようとする提案です．
たとえば「運動量保存」「重力加速度」等の学生実験では, 最近, 高性能なICT（情報・通信技術）機器と優秀なソフトウェアによって測定は容易にできるようになりました．しかし, これら検証程度の実験でも測定機器は高価で, かつ特定実験の専用仕様となっています．そこで，大学での教育目的の学生実験に用いるハード・ソフトには, もっと安価でかつ汎用な実験に用いることのできるものが望まれます．
本提案は、イベントカメラの特徴を活かして, 従来の学生実験における上述のような課題を克服しようとするもので, 例として「自由落下する物体に働く空気抵抗力の測定」と「水面に落とした水滴による波紋および干渉縞の測定」を取り上げて, 測定対象の全く異なる２つの実験にイベントカメラを汎用的に活用でき, また, 従来の測定機器を用いた実験に比べて, 精度を落とすことなく, かつ簡便な測定システムで実験ができることを示しています．時間変化だけを捉えるイベントカメラでは, 実験に対する雑音としての環境（雑多な背景等）は時間的に変化しないので,イベントカメラにはデータとして乗ってこないため, 背景を整えるなどの環境設定・実験準備をほとんどすることなく実験を行うことができます．

（２）イベントカメラを用いた「自由落下する物体に働く空気抵抗力」の測定

「自由落下する物体に働く空気抵抗力の測定」のための学生実験の様子を図１，図２に示しています．
通常カメラを用いた実験（図１）では, 実験に対する雑音としての雑多な背景を除くために, たとえば実験の背景として単色の一様な幕を用意して, それに触れないように注意しながら物体を落下させるなどの環境設定・実験準備が必要であるのに対して, イベントカメラを用いた実験（図２）では, 背景を気にすることなく雑然とした実験室に三脚を立てて, その上に立って物体を落下させるという簡便な方法で実験を行うことができます．（動画１）

◎「水面に落とした水滴による波紋および干渉縞」の測定

従来の実験で用いた高価な装置（例、教師演示用水波投影機FRT-3000Nや生徒実験用水波投影装置RT-L）に比べ,イベントカメラでは,スタンドに固定したイベントカメラの下に水をはった発表スチロールケースを置き、水滴を落とすのみ（図３）．前処理は行っていません（動画２）．

本提案はイベントカメラの研究への活用ではなく, 学生教育への活用を目指したものであり, 今後いろいろな教育分野・実験への応用可能性が期待されます．これからどのような分野・実験に応用できそうか, そのためのイベントカメラの使用方法やとりこんだデータの評価方法まで学生に考えさせるという教育効果も期待でき, 『優秀賞』に選出しました．

（３）チームのご紹介

（設営理念）
本団体は,理科好きの学生が持っている「自然科学への興味」「発見することの喜び」とは何かを問いつつ,その興味・喜びを如何にして伝えるかを考えながら,理科教育の実践力を養うことを目的としています．また,団体名であるSPINOZAは,17世紀のオランダで神即自然という非人格的神概念を唱えた哲学者・神学者であるBaruch De Spinoza（バールーフ・デ・スピノザ）に由来しています．
活動内容としては，宮城教育大学教授の内山を中心に,子供たちが興味をもつ物理を中心とした教材の開発などを行い,仙台市天文台や協力校での補習授業などの機会を活かし実践を行うこと．最終的には,学生の理科に対する深い思考力の獲得を目標としています．

（4）受賞のご感想